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Mc.OKAZAKIのミリタリーよもやま話 その8

連合艦隊、最後の旗艦

今日の題材は日本海軍の軽巡洋艦『大淀』です。

軽巡洋艦と言っても、『大淀』は全長180m、排水量は9980dもあり、重巡洋艦の『古鷹』級(177m、8585d)よりも大きく、日本最大の軽巡洋艦でした。
『大淀』は元々潜水艦部隊の旗艦として設計・建造された艦で、その任務上必要な長大な航続力・通信等の旗艦設備・そして広大な太平洋戦域をカバーするための多くの水上偵察機を搭載出来ました。
しかし完成した1943年2月28日の時点で既に日本軍は太平洋戦域で劣勢になりつつあり、不毛な消耗戦を続けるガダルカナル戦域への輸送が、連合艦隊にとって最重要な任務となっていたのです。搭載予定の水上偵察機『紫雲』の開発に失敗した事もあって、その広大な格納庫を利用して『大淀』もこの輸送に従事する事になったのです。任務中の1944年1月1日にはカヴィエンの空襲で至近弾1を受けて小破しています。

その後、横須賀に戻った『大淀』は、『紫雲』運用のための大型カタパルトを通常の物に換装し、格納庫を連合艦隊旗艦用の司令部施設へと改装。1944年5月4日、『大淀』は豊田副武大将の乗る連合艦隊旗艦となるのです。

写真は連合艦隊旗艦時。千葉県木更津沖に停泊中の『大淀』です。

開戦後、連合艦隊の旗艦は戦艦『長門』→戦艦『大和』→戦艦『武蔵』と引き継がれ来たのですが、ここで軽巡の『大淀』となった理由は

@燃料情勢の悪化により、大型艦の行動に制限が出始めた
A『大淀』が元々艦隊旗艦用に設計されている艦だった(通信設備等が充実している)
B司令部用の十分なスペース(元格納庫)があった
C『大和』『武蔵』を最前線に送らねばならない戦況となってきた

といった所のようです。

さて、アメリカ軍との一大決戦となったマリアナ沖海戦が1944年6月に勃発します。『大淀』は出撃する事なく、木更津沖で連合艦隊旗艦として遥か南方で行われている決戦を督戦しますが、日本軍は主力空母3隻と、多くの艦載機を失って大敗してしまいます。

マリアナ沖海戦の敗北によって“絶対国防圏”と謳って来たサイパン・グアムが失陥し、日本本土にまでアメリカ軍の空襲が行われるようになると「浮いている艦に司令部を置くのは危険」と判断されるようになります。
結果、1944年9月29日に『大淀』は連合艦隊旗艦の任を解かれます。その後連合艦隊司令部は艦上に司令部を置かず、神奈川県日吉の慶応大学予科の地下室に移ったのです。

既に太平洋戦線の帰趨は決していましたが、連合艦隊の総力を挙げた最後の大決戦の場が訪れます。1944年10月、フィリピン・レイテ島に上陸したアメリカ軍を叩く『捷一号作戦』です。
『大淀』に与えられた任務は、レイテに突入してアメリカ軍を叩く役割ではなく、アメリカ軍の強力な空母機動部隊を誘き寄せて、『大和』『武蔵』らがレイテに突入するのを助ける囮空母部隊の護衛でした。

1944年10月25日、囮部隊の旗艦・空母『瑞鶴』から撮られた『大淀』の姿です。この後艦隊はアメリカ機動部隊の猛攻を受け、空母部隊は全滅、護衛の艦も次々に沈められて行きますが、『大淀』は35ノットの高速力と強力な対空火器で敵機を寄せ付けず、『瑞鶴』沈没後は囮部隊旗艦を引き継いで無事に日本へ帰還しました。しかし、これが『大淀』最後の出撃となったのです。

もはや戦局を覆すための作戦もなく、燃料すらなくなった『大淀』は広島県呉沖に停泊して無為な日々を過ごす事となりました。
1945年3月19日、アメリカ軍の艦載機が呉軍港を急襲。『大淀』も被弾し炎上、煙突に大穴を開けられます。
そしてとどめを刺されたのが7月24日と28日の呉空襲。身動きの取れない『大淀』は機関室・ボイラー室等に計8発の直撃弾と無数の至近弾を受けて浸水、遂に横転してしまったのです。

連合艦隊最後の旗艦として栄誉を担った艦の、哀れ過ぎる末路でした。『大淀』はその後しばらく放置され、解体のために引き揚げられたのは2年後の1947年9月の事でした。

解体作業中の『大淀』。15.5cm3連装主砲は砲身が曲がり、艦橋はひしゃげてます。連合艦隊旗艦拝命時の写真の凛々しさと比べると、寂寥感は否めません。
それでも艦橋横の10cm連装高角砲は空を睨んだままであり、最後まで『大淀』が奮戦した証となっています。


今年は東郷平八郎元帥が連合艦隊旗艦『三笠』艦上にて指揮を揮い、ロシア・バルチック艦隊相手に歴史的大勝を収めた日本海海戦から丁度100年にあたります。
また同時に、連合艦隊最後の旗艦『大淀』が呉沖で無念の横転をしてから丁度60年でもあるのです・・・。

(2005・1・16)

 

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