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Mc.OKAZAKIのミリタリーよもやま話 その9

世界で唯一「ミサイルに」沈められた戦艦

今日は軍ネタで。但し、旧日本海軍でも米海軍でもドイツ海軍でもなく、今まで取り上げた事のなかったイタリア海軍のお話。

「ミサイル」というと、第2次世界大戦以降、戦争の主役とも言えるようになった戦術(もしくは戦略)兵器。
「戦艦」というと第2次世界大戦以前の海戦の主役で、第2次大戦以降次々と退役して行き、現在では就役している艦が1隻もいない、言わば“過去の遺物”。
米海軍が一時的に『アイオワ』級戦艦をトマホーク&ハープーンの発射プラットホームとして復帰させた事を例外とすれば、両者に接点はないように感じるのですが、実は歴史上たった1隻、ミサイルに沈められた戦艦がいるのです。それがイタリア戦艦『ローマ』です。

日独伊三国同盟を結んで、ムッソリーニの指導の元第2次世界大戦で連合軍と闘ったイタリアですが、1943年8月末にムッソリーニが逮捕され、バドリオ元帥が代わって首相の座に就くとイタリアはあっさり連合軍に降伏してしまいます。
日本やドイツのように徹底抗戦して敗れた訳ではないので、イタリアはまだ多くの戦力を保有していました。その中にはイタリアの最新鋭戦艦『イタリア』『ヴィットリオ・ヴェネット』『ローマ』の3隻もありました。

『イタリア』級戦艦は全長237.79m、全幅32.84m、 満載排水量45,752d、最大速力30.5ノット、38.1cm(50口径)3連装主砲3基を搭載。日本の『長門』級、ドイツの『ビスマルク』級、イギリスの『キングジョージV世』級、アメリカの『ノースカロライナ』級に比肩する、当時世界でも最強クラスの戦艦でした。

ロクに戦わない内にあっさり降伏したイタリアにドイツのヒトラー総統は激怒。しかもその強力な艦隊をみすみす連合軍に与える訳にはいかない・・・ヒトラーは見せしめの意味も込めて、マルタ島へ回航されるこの戦艦に、秘密兵器を撃ち込むよう命令を出したのでした。

それがこれ、無線誘導空対艦爆弾フリッツX(FritzX)です。第2次世界大戦の前からロケット推進の研究を進めていたドイツが、世界に先駆けて実用化に成功した初の遠隔誘導弾(ミサイル)だったのです。
ミサイルの操縦は母機から誘導員がジョイスティックにより操作・誘導するシンプルな方式でありながら高度な性能を発揮し、高度6000mからの投下で誤差僅か60pと、当時の技術力を鑑みれば驚異的な性能を誇る兵器でした。重量は1565kg、炸薬量は320kgと大型爆弾並みの破壊力も兼ね備えていました。

1943年9月9日、戦艦『イタリア』『ヴィットリオ・ヴェネット』『ローマ』、それに軽巡4隻と駆逐艦8隻からなるイタリア艦隊は早朝、ドイツ軍爆撃機Do217の空襲を受けます。この時Do217から発射されたのがフリッツXでした。
『ローマ』はまず後部マスト付近に被弾。右舷機械室を破壊され速力が半減します。更に2発目が第2主砲と艦橋との間に命中。左舷機械室損傷により艦は停止。必死の消火作業が行われましたが、竣工が遅れ訓練もろくに受けていない乗員は鎮火に手間取ります。約20分後、遂に前部火薬庫に引火。火薬庫の大爆発は『ローマ』の船体を真っ二つに折り、大音響と大黒煙と共に瞬時に沈没したのでした。
僚艦『イタリア』もこの時艦首に一発のフリッツXを受けますが、こちらは何度も乗員が艦の損傷を経験していたために、応急修理が完了し、『ヴィットリオ・ヴェネット』とともに9月11日にマルタ島に到着しました。

この大戦果に気を良くしたヒトラーはフリッツXの増産を命じますが、その後の戦果は数隻の駆逐艦の撃沈、それにイギリス戦艦『ウォースパイト』、アメリカ軽巡洋艦『サバンナ』の大破程度の戦果に留まります。それは既にドイツが制空権を失い、フリッツX発射の機会を失って行ったからに他ならなかったのです。
いかに強力な最新兵器を持とうとも、それを活かせる戦略的条件が整わないと戦争には勝てないんですね〜。

(2005・1・30)

 

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