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Mc.OKAZAKIのミリタリーよもやま話 その10

血塗られた“純白の戦艦”シャルンホルスト

今日はホワイトデーを記念して、純白の船体と呪われたとしか思えない経歴を持つドイツの戦艦『シャルンホルスト』を紹介してみようかと(←相変わらず鬼畜な性格)。

『シャルンホルスト』は第2次大戦直前の1939年1月に竣工した、ドイツの最新鋭戦艦でした。3連装28cm主砲3基と火力は他の国の戦艦に比べて弱かったものの、全長230m、排水量38,000d、速力32ノットと大きな船体に比して高速力を誇る、第一級の戦艦でした。また、純白に塗られた船体と、大戦後期に登場したアメリカの新鋭戦艦を彷彿とさせるシャープなシルエットは当時から人気が高く、ワタシもドイツの戦艦では『ビスマルク』級よりも『シャルンホルスト』の方が優美で好きだったりします(^-^)ノ

さて、この美しい戦艦『シャルンホルスト』、実は「呪われた戦艦」として軍ヲタの間では知られています。では、起工から沈没まで、『シャルンホルスト』の生涯を追い駆けながら、その伝説を検証して行きましょう。


●伝説その1・船体建造中に多発事故
この呪われた戦艦の伝説は、建造中に既に始まっています。
ドッグの中で船体を建造中、何の前触れもなく船体がいきなり横転したのです。作業に当たっていた造船技師60人がその下敷きになって死亡、負傷者も110人に上りました。そして船体を再び起こすのに3ヶ月以上もかかっています。
他にも建造中にボイラーが幾度も爆発事故を起こして死者を出したり、艦長になる予定だった士官が心臓発作で突然死するなど、完成前からその呪いの片鱗が見え隠れしていたのです。

●伝説その2・進水式・洗礼の少女の謎の死
この最新鋭戦艦の進水式の日、港には何段もの桟敷が組まれ、その上に色とりどりの幔幕と鍵十字の旗、軍艦旗がはためいていました。白い船体には花のように何重ものベールが垂らされ、花嫁のような装いの白い巨艦にヒットラーやゲッペルスを始め、市長や海軍代表から祝辞が花向けられました。
ちなみにヨーロッパでは船が誕生した際、抽選で無作為に選ばれた女性が洗礼親となって祝福の言葉を述べ、航海の安全を祈る、という儀式があります。
最後にシャンパンと聖水で洗礼を与える役を与えられた少女が震える声で呼びかける様子が当時のニュースフィルムに残っています。

「戦艦『シャルンホルスト』、汝はドイツの心を持って祖国と人とを担うべし。神よ、鉄の肉体とドイツの栄誉をいま海に託します」

ところが進水式で『シャルンホルスト』の洗礼親になった少女が数日後、不思議な文字を書き残して手首を切り、自殺してしまったのです。ドイツ海軍の名誉にかかわる事件なだけに秘密警察ゲシュタポが捜査し、遺書らしいその文字も調べたのですが、それがルーン文字に近い言葉で「私は魅せられました」「護りなさい」と書かれていたらしいことが分かった以外、何故14歳の平凡な少女が、そんな難解な古代語を知り、何のために書いて死んだのかとうとう分からずじまいだったのです。

●伝説その3・進水式後に更に悲劇が
船台を滑り出して、無事に港に浮いた『シャルンホルスト』の船体。しかし、ちゃんと係留されていたにも関わらず、船が勝手に港を離れて沖に流されてしまい、船に繋いでいた飾り船数隻を、その乗組員もろとも海中に沈めてしまったのです。

●伝説その4・霧に消えた巨艦
竣工なった新鋭戦艦『シャルンホルスト』は静かにキール軍港を出撃、霧と共に北洋の海に姿を眩ませてしまいます。イギリス海軍はこの戦艦の行方を掴もうと偵察機を派遣したのですが、放った偵察機の半分が霧の中に行方不明になってしまいます。被害の大きさに驚いたイギリス軍は追跡を諦めたのでした。

●伝説その5・実戦初の主砲発射
ダンチヒの港町を砲撃する任務を受けた『シャルンホルスト』。だが、陸に近づいて砲撃を加えようとした瞬間、突然艦の砲門が暴発し、主砲要員9人が死亡。そして更に別の砲台では空調設備が故障し、ここでも12人の兵が窒息死したのです。

●伝説その6・イギリスの疫病神
ドイツが中立国ノルウェーを侵略したときのことでした。イギリスは小国ノルウェーを救援すべく、戦艦や空母からなる精鋭艦隊を派遣したのですが、そこに『シャルンホルスト』率いるドイツ艦隊が立ちふさがったのです。彼等を追い払いはしたものの、救援が遅れた為にノルウェーはドイツに降伏してしまいました。
やむを得ずノルウェーに駐留していたイギリス陸軍部隊は霧に紛れてやって来た空母『グロリアス』の輸送艦隊に逃れ脱出しようとしました。しかしその時突然、戦艦『シャルンホルスト』が音もなく霧の中から現れたのです。『グロリアス』は撃沈され(戦艦の攻撃で正規空母を撃沈したのは、これが世界で唯一の例)、陸軍兵の多くが波間に消えたのでした。
『シャルンホルスト』はその後、復讐を叫ぶイギリス軍の必死の捜索をかわして大西洋に進出しますが、イギリス軍の追っ手や偵察に何故か不思議につかまりません。そして、島国イギリスから世界中の戦地へと向かう船団の前に現れては10万トンもの艦船を海底に葬り去ってしまいます。今や、イギリスにとって、『シャルンホルスト』は死の天使に護られた幽霊戦艦として恐怖と憎悪の対象になっていました。

●伝説その7・イギリス海峡突破
戦況の悪化から、フランス西岸のブレスト軍港にいた『シャルンホルスト』以下の艦隊を本国に戻す必要に迫られたドイツ海軍。しかしそのためには、泳いで渡る人もいるあの狭い英仏海峡を突破せねばなりません。
『シャルンホルスト』以下2隻は、なんと白昼堂々とこの英仏海峡を突破して来たのです。予想もしなかった出来事に意表を突かれたイギリス軍は大慌てでその場にいた魚雷艇や駆逐艦、爆撃機をかき集めて追いすがったのですが、苦もなく蹴散らされ、ドイツ艦隊は本国に逃げ帰ってしまったのです。英仏海峡を敵が通り抜けるという出来事はスペイン無敵艦隊以来の出来事で、イギリスにとってこれに優る屈辱はありませんでした。

●伝説その8・1943年のクリスマスイヴ
ドイツの敗戦の色が濃くなり、僚艦も次々と失われていた1943年暮れ。北洋の港に憩う『シャルンホルスト』に不思議な情景が広がりました。晴れることの滅多にない北洋の重苦しい雲の一角が晴れ、差し込んだ光条が彼女を照らしたのです。1943年、12月24日のことでした。
静謐ななかにたたずむこの孤艦は、まるで神の啓示を受けたかのように白い光に包まれ、その様子は、ある有名な従軍画家によって描かれました。やがて、雲が再び空を覆い、光が消えたとき、もしかすると死を代償に守護天使となったあの進水式の少女もまた神によって許され、この不吉な戦艦のもとから去っていったのかも知れません。
守護天使を失った『シャルンホルスト』の最期は目前に迫っていました。

●伝説その9・最後の戦い
1943年12月25日。『シャルンホルスト』は、北極海にいるイギリス艦隊を奇襲するため、深夜エルベを出航しました。
闇に隠れてノルウェー沿岸を航行する『シャルンホルスト』。しかしその途中でイギリスのパトロール船とすれ違ってしまったのです。その距離約200m。たがこの時『シャルンホルスト』の乗組員は誰一人としてパトロール船の存在に気付かなかったのです。パトロール船から連絡を受けたイギリス艦隊が攻撃へと向かい、『シャルンホルスト』はすぐに発見され、戦闘が始まったのです。
火力の面で圧倒的に不利な『シャルンホルスト』は、その快速を活かして戦場を離脱しようと試みます。14,000mまで引き離し、そのまま逃げ切れると思った矢先の事です。ダメもとでめくら撃ちしたイギリス艦隊の砲弾の1発が奇跡的に『シャルンホルスト』に命中、火災を引き起こしたのです。
闇夜に浮かぶ火災の炎は格好の標的になりました。集中攻撃で数百発の命中弾を受けた『シャルンホルスト』は冷たい真冬の北極海にその姿を消しました。1,669名の乗組員の内、ゴムボートで脱出に成功したのは僅か2名だけでした。

●伝説その10・2名の生存者
かろうじて艦を脱出した2名の生存者。彼らはゴムボートの上とは言え、極寒の北極海上に放り出されたのです。何とか沿岸まで辿り付き、冷え切った体を温めようと携帯用の小型ヒーターに火をつけたその時、小型ヒーターが爆発。2人の命を奪ったのです。


敵も味方も多くの人の命を奪い、そして沈没する時には乗組員全員を道連れにした『シャルンホルスト』。まさに悪魔に魅入られた戦艦だったのではないでしょうか。

(2005・3・14)

 

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