Mc-LINERS特設

Mc.OKAZAKIのミリタリーよもやま話 その15

傷だらけの不沈艦−戦艦『ウォースパイト』

海戦の主役を航空機に奪われ、“戦艦受難”の戦争となった第2次世界大戦。日本戦艦『大和』『武蔵』、ドイツ戦艦『ティルピッツ』(間接的には『ビスマルク』も)、イギリス戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』『レパルス』、アメリカ戦艦『アリゾナ』『オクラホマ』、イタリア戦艦『コンテ・デ・カブール』『ローマ』など、世界に名を冠した有力な戦艦が次々と航空機によって葬られて行きました。しかしそんな中、幾度も致命的な損傷を被りながら、その都度戦場に返り咲いて「第2次大戦中、最も活躍した戦艦」と呼ばれた戦艦が、今日紹介するイギリス戦艦『ウォースパイト』です。

『ウォースパイト』が竣工したのは1915年3月。折りしも第1次世界大戦の最中です。
この艦はどうも“損傷癖”がはじめからあったようで、
●1915年9月、座礁事故
●1915年12月、同型艦『バーラム』と接触事故
を起こしています。

翌年5月、新鋭艦『ウォースパイト』は同型艦『クイーン・エリザベス』『バーラム』『マラヤ』とともに、第1次大戦最大の海戦・ジュットランド海戦に参加。第5戦艦部隊に属した『ウォースパイト』は、敵中に孤立した味方の巡洋戦艦部隊を救出するなど活躍を見せますが、
●1916年5月、ジュットランド海戦においてドイツ艦隊と交戦、大小29発の砲弾を受け大破
の被害を出し、舵を損傷して「ウォースパイトの死の行進」と呼ばれる円運動を繰り返すだけの状態にまで陥ります。辛くも生き延びた『ウォースパイト』ですが、更に
●1916年12月、同型艦『ヴァリアント』と接触事故
と、その“損傷癖”は留まる事を知りませんでした。

第1次大戦終結後は2度に渡って大規模な近代化改装工事を受け、その姿は下の写真のように大きく変貌しました。

地中海艦隊の旗艦を勤めていた1939年9月、第2次世界大戦が勃発します。25年近い艦齢の旧式艦となっていた『ウォースパイト』ですが、2度の近代化改装のおかげでまだまだ第一線に踏み止まっていたのです。

1940年4月、戦場をノルウェイ沖に移していた『ウォースパイト』は、搭載偵察機がフィヨルドに潜むドイツの駆逐艦部隊を発見。8隻の味方駆逐艦を率いてここに突撃、10隻のドイツ駆逐艦を全滅させる見事な働きを見せます(第2次ナルビク海戦)。
その後再び地中海に戻った『ウォースパイト』は、7月にはイタリア戦艦『ジュリオ・チェザーレ』と交戦、これを撃破(カラブリア岬沖海戦)。翌1941年3月にはイタリア重巡洋艦『ザラ』他2隻と駆逐艦1隻を撃沈(マタパン岬沖海戦)と、第1次大戦当時の運の悪さを払拭出来たかのように思えましたが、
●1941年5月、クレタ島沖で爆撃を受け損傷
更に同月、
●1941年5月、アレクサンドリア港において応急修理中に爆撃至近弾を受け破損拡大
と、再び悪い癖が再燃します。

同盟国アメリカで修理を受けた『ウォースパイト』は、1942年1月にはインド洋の東洋艦隊に派遣されますが、当時破竹の勢いだった日本の南雲機動部隊がインド洋に現れるとマダガスカルまで撤退、その後日本軍と交戦する機会は二度とありませんでした。
1943年6月には再び地中海艦隊に所属し、シチリア島への上陸支援などに活躍しますが、同年9月、『ウォースパイト』は生涯最大の損傷を被る事となります。
●1943年9月、ドイツの誘導爆弾”フリッツX”の直撃を受け大破・航行不能
以前この日記でも記した、イタリアの新鋭戦艦『ローマ』を一撃で葬った“世界初の誘導ミサイル”が艦の装甲を貫いてボイラー室で爆発、完全な修理は不可能な程の損害を受け、僚艦に曳航されてようやくマルタ島に到着して同地で応急修理の後、イギリス本国で本格的な修理に入るのでした。

修理には半年を要し、『ウォースパイト』が前戦に戻って来たのは1944年3月の事でした。
6月にはノルマンディ上陸作戦に参加しますが、
●1944年6月、ノルマンディー上陸作戦支援中、触雷により推進軸1機を損傷
と、損傷癖だけは健在でした(w
その後、ドイツのブレスト軍港への艦砲射撃などを行った後、翌1945年2月、艦齢30歳を目前にしてようやく予備役となり、前戦から退く事となったのです。
1946年3月、幾度も受けた損傷もあって同型艦の中では最も早く除籍され、1947年3月にスクラップとして業者に売却されて『ウォースパイト』はその長い歴史に幕を下ろす事になりました。


が、

この艦の悪い癖は最後の最後になってまで健在でして・・・


●1947年4月、ファスレーンのスクラップ場へ曳航中、嵐に遭ってマウンツ湾で座礁


結局『ウォースパイト』はファスレーンに辿り着けず、近場のコーンウォールのプロシャ湾で実に9年もかけて解体される事となったのです(^-^;
他艦と協力しあって戦艦1隻撃破、巡洋艦3隻撃沈、駆逐艦11隻撃沈。さらに多くの上陸作戦で支援を行い、「第2次世界大戦で最も活躍した戦艦」と言われた『ウォースパイト』ですが、●を数えれば分かる通り、実に9回もの損傷に耐え抜いた撃たれ強さが、その戦績を支えていたのでした。

(2005・11・12)

 

Mc.OKAZAKIのミリタリーよもやま話 過去コンテンツリストへ

Mc-LINERSトップページへ