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Mc.OKAZAKIのミリタリーよもやま話 その20

ドイツの最強戦艦、その真の価値は・・・?

今日は超久々に軍ネタを。今回のお題は現在ワールドカップでも快進撃中のドイツが建造した、最大最強の戦艦『ティルピッツ』です。

『ティルピッツ』は、『ビスマルク』級戦艦の2番艦として1941年2月25日に竣工。この3ヵ月後に『ビスマルク』がイギリス海軍のほぼ全てを相手取って戦い、壮絶な最期を遂げているので、この欧州最強戦艦コンビが洋上に舳先を並べていたのは僅か3ヶ月だけだったんですね〜。
『ティルピッツ』の排水量は52,700t。戦艦としては日本の『大和』『武蔵』に次ぐ世界第3位の巨艦でした。全長は247.99mと『大和』級やアメリカの『アイオワ』級より若干小振り。最大速力30.1ktは『大和』級以上『アイオワ』級以下ってとこですが、当時の水準ではかなりの高速戦艦です。主砲は38cm連装砲4基8門。46cm3連装砲3基9門の『大和』、40cm3連装砲3基9門の『アイオワ』には引けを取っていましたが、その総合力から“欧州最強戦艦”と呼ばれる、いわばドイツ海軍の切り札的存在でした。

しかし乗組員の慣熟航海・戦闘訓練を終えた1942年冒頭、いざ活躍の舞台を欲して出撃せんとしても、欧州の海洋覇権は既にイギリスに握られており、大西洋での通商破壊作戦はもはや不可能な状態となっていました。
このままでは欧州最強の戦艦も宝の持ち腐れ・・・そこでドイツ海軍は、『ティルピッツ』の活躍の場として、ノルウェイ沖を選んだのでした。フィヨルドに潜んで待ち伏せし、沿岸を通るイギリス艦、主にソ連へ向かう輸送船団を狙ったのです。

(写真はノルウェイのフィヨルドに潜む『ティルピッツ』)
ノルウェイ沿岸は未だイギリスが制空権を得ていない地域であり、それでいて海洋通商上、非常に重要な海域でもありました。そこにドイツの最強戦艦が獲物を求めて牙を研いでいる・・・イギリスにとってこれは非常に厄介な存在となりました。

これを排除するためにイギリス軍はありとあらゆる手段を講じました。
水深が浅い上、幅が狭い水域に潜んでいるので、停泊中に空母艦載機による魚雷攻撃は行えないため、魚雷攻撃を行うには一端外洋におびき出す必要がありました。1942年3月には外洋で空母『ヴィクトリアス』搭載のアルバコア雷撃機12機が『ティルピッツ』を襲いましたが、その高速力で全魚雷を回避された上、逆に対空砲火で2機を撃墜される始末。
この事態にイギリスは、同盟国ソ連に「『ティルピッツ』怖いからもう輸送船団送れませーん!」と輸送船団を派遣するのを拒否、外交問題にまで発展。ノルウェイ沿岸を通らざるを得ないイギリスの艦艇は常に『ティルピッツ』の脅威にガタブル状態が続き、1942年7月には『ティルピッツ』の影に怯えたPQ17船団が隊形を崩してバラバラになってしまい、ドイツの沿岸基地の爆撃機やUボートの格好の餌食になって壊滅するという事態まで発生しました。

その後、燃料不足もあって『ティルピッツ』はフィヨルドから出撃する機会がめっきり減りましたが、それでもその存在の脅威は続きました。
イギリス軍は奇策に出ます。1943年9月、数人乗りの超小型潜水艦2隻でひっそり『ティルピッツ』に接近し、爆薬を仕掛けたのです。これが見事に成功し、『ティルピッツ』は大破。修理のために工作艦『ノイマルク』を呼び寄せ、1944年3月に修理は完了しますが、『ティルピッツ』は以後二度と出撃する機会は無かったのです。

1944年4月からはイギリス軍空母艦載機からの執拗な爆撃に晒されます。魚雷と違い、爆弾では決定的なダメージは与えられませんでしたが、16発もの爆弾を浴びた『ティルピッツ』は少しずつダメージを蓄積させていったのです。
そしてイギリスは『ティルピッツ』に対し、完全に息の根を止めるために最終手段に打って出ました。

それはイギリス最大の重爆撃機・アブロ=ランカスターに5t爆弾を搭載し、爆撃を行うという前代未聞の作戦でした。これまでの爆撃で対空火器の多くが破壊されていた『ティルピッツ』は、5t爆弾を吊り下げてヨタヨタ飛ぶこの鈍重な爆撃機を撃墜する事すら出来ませんでした。
1944年9月、1機のランカスター重爆撃機が5t爆弾を投下。狙いは僅かに逸れたものの、至近弾で『ティルピッツ』は大破・航行不能に陥ります。爆撃を避けるためにハーコイ島近辺へ曳航された『ティルピッツ』ですが、同年11月に再びランカスターの爆撃を受けます。今度は3発もの5t爆弾が『ティルピッツ』を直撃しました・・・

さしもの世界第3位の巨大戦艦もこれには敵わず大破・横転。『ティルピッツ』は3年9ヶ月の短い生命を終えたのです。イギリスにとっての目の上のタンコブは、こうしてようやく取り除かれました。

竣工から沈没まで、一度も敵艦と戦う事のなかった悲劇の戦艦であり、その建造の意義も問われる『ティルピッツ』ですが、3年弱もの長い間、イギリスにとって強烈な“嫌がらせ”となっていたのもこれまた事実。そしてそれを排除するためにイギリスが費やした時間や試行錯誤はいかばかりだったか・・・。そう考えると、戦略的には非常に重要な意義があった戦艦という事になりそうです。

(2006・7・1)

 

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